離婚・別居子供の気持ち-「別れないで」言えなかった
第二話「潰れたオムレツ」
両親が言い合いをしているところは見たことはないが、二人の出すオーラは明らかに違ってきていた。なんか変にイライラしていて、家族三人で食事をしていても空気はとても重苦しかった。
父の好きなことに母を誘っても、丸っきりそっけなかったり。母は自分の好きなことに私をよく連れて行ってくれたが、父には出かけることさえおしえなかったり・・・。
「どう見ても、なんか変」。
私はそう感じ始めた。
ある時、母の友人らと海へ旅行に行くことになった。私はすっごく楽しみでウキウキしていた。
「でもどうしてお父さんは行かないのかな?」。
ちょっと釈然としなかったけど、まあ海へ行けるからいいかな~、なんて考えていた。
そしたらある日、父親にすっごく怖い顔で言われた。
「どうして俺をさそわないんだよ!!!」。
・・・・・?
私はびっくりして、そしてよく分からないけどめちゃくちゃ恐ろしくなって震え上がった。
母がいじわるをして父を誘わなかったんだと、その時やっと理解した。
父は何かというとイライラして、たまに怒鳴るようになった。
小5のある土曜日、午前中で学校が終わった私は喜んで家に帰ってきた。母はいなかったが父はいた。お昼ごはんはまだという。
私はこの前父が作ってくれたまずいチャーハンの記憶があったので、今日の昼は私がラーメンを作りますと宣言した。インスタントラーメンの袋裏を見ながら、麺をいれて、薬味を入れて・・・。すると父が「卵を入れてくれ」というので、冷蔵庫から生卵を出して割って入れた。そして最後に菜ばしでグルグルかき混ぜて出来上がり・・・!
父「なんだこれ??卵を入れてくれと言ったら普通は卵とじにするんだよ・・・。あーあ、まあいいや」
そう文句を言われた。
だって生卵を落としたラーメン、お父さんはいつも最後に箸でグルグルかき混ぜてお汁と一緒に飲んでたじゃん!!
なんかすっごく頭にきた。でも口調がとても強かったので、怖くて言い返せなかった。
共働きなのに父は家のことは全て母にまかせっきりで、それが仲が悪くなった原因に違いないと私は思うようになった。
沙緒の心中(家のことは何もせずに、こんなに文句ばっか言われたらお母さんだって頭にくるよ!)
だから私は少しでも母の負担を軽減するよう、お手伝いをすることにした。学校から帰ってきたら母のメモに従ってお買い物。たまに残ったお釣りで焼き鳥を一本食べるのが楽しみだった。
食事の後は食器をさげる。
洗濯が終わったら洗濯物はすぐ取り出す(臭くなるから)。
靴下はそろえて干す。
ガスは使い終わったら必ずガス栓を止める。
私はなんだか急に賢くなったみたいな気がして、変に得意になってきた。
買い物に行けば「お遣い偉いわね!」と褒められるしね!!
そして、「このくらいの事、お父さんもやってあげればいいのに!」とますます父に腹を立てていた。
また別の土曜日の午後、
家に帰ってきたら父だけがいて、朝から食卓に置かれたままのオムレツに小虫がたかっていた。
母が作って置いていったオムレツだったと思う。ラップがちゃんとされていなかったため、虫が中に入ってしまっていた・・・。
そうしたら父がやってきて、案の定イライラしているようだった。
父はオムレツを見るなりこう怒鳴った。
父「きたねぇ~なーー!どうしてうちはちゃんと片していないんだよ!!」
・・・
それを聞いた途端、私は一気に頭に血がのぼってきて、オムレツを皿ごと掴んで階段を駆け下り玄関から飛び出した。
そして家の目の前の道路に虫ごとオムレツを投げ捨てた。道に投げつけたオムレツはべチャッという音をたてて、アスファルトの上に潰れて広がった。
私は興奮していたのかめちゃくちゃ息が切れていた。
本当にムカついて、腹が立っていた。
・・・でも、
まだ虫が飛んでいる黄色いオムレツだった塊を見てたら・・・、
なんでか涙が滲んできた・・・。
それで、その場に立ち尽くしたまま涙がボタボタ地面にたれた。
自分でオムレツをゴミ箱に捨てることさえしない父親にムカついて涙が出てきたのか・・、
母がせっかく作ってくれたオムレツにそんな暴言を吐いた父に失望して涙が出てきたのか・・・
それとも亀裂の入った家族の関係を修復できない自分のふがいなさに涙が出てきたのか・・・。
いろんな感情がごちゃまぜになって、涙と一緒に地味に流れていった。
・・・そしてやっぱり、私の吐き気も全く良くなりはしなかった。
<つづく>